副業・兼業と労働時間の把握
近年、スキルアップや収入のため、副業・兼業を希望する人は年々増加傾向にあります。
しかし、現状は、副業・兼業を認めていない企業が85.3%、
また、推進していないが容認している企業が14.7%となっており、
自社での業務が疎かになること、情報漏洩のリスクがあること、
競業・利益相反になることなどの課題・懸念点が払拭できず、
導入にまで至っていないという状況にあります。
また、副業・兼業を認めた場合には、副業・兼業先も含めた
「労働時間の把握」が必要です。
労働基準法第38条では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、
労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されています。
この「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合を含むとされています。
(労働基準局長通達(昭和23年5月14日基発第769号))
そこで、ひとつ具体的な例を見ていきましょう。
【例1】
AさんはH社で働いていますが、収入アップのため、
H社で働いた後に、Y社でアルバイトを始めることにしました。
1日あたりの労働時間は、次の通りです。
H社 9:00〜 17:00・・・(労働時間:7時間(休憩1時間))
Y社 18:00〜 22:00・・・(労働時間:4時間(休憩なし))
この例で見ると、Aさんは1日を通して7時間+4時間=11時間働くことになります。
けれども、法律で定められている1日に働かせて良い時間は8時間です。
(労働基準法第32条)
そのため、Y社では4時間しか働いていませんが、Y社は、H社との労働時間を通算した上で、
11時間△8時間=3時間分の割増賃金を支払わなければなりません。
もちろん、この時間外労働は、36協定の限度時間にも含めて考えなければならない時間
となります。
副業・兼業を行う上での労働時間については、労働者の自己申告をもとに
管理することが原則とされています。
しかし、1日、1週間、1月で労働時間を把握していかなければならないこともあり、
健康管理や安全配慮義務も併せ、企業の対応を考えると、
今よりも複雑な勤怠管理が必要となることが想定されます。
とはいえ、必要以上に労働者の副業・兼業を制限することの無いようにするため、
労使間での充分な検討を踏まえ、適切な運用を心がけることが肝要です。
新しい制度なので、今後の動向にもご注意ください。
〈参考〉
(文/石黒)